サイバートラスト

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認証(鍵2) ※「パスワード」をテーマにしたショートストーリー

2017年01月27日

120534123.jpg 刈り取りの終わった田んぼの向こうに錆びついた重機が乗り捨てられている空き地があった。雨が降ると地面の大きな窪みに水がたまる。ところどころに立て掛けられた朽ち果てた板には打ち抜けた釘が尖っていた。もっと近づいていくと枯草で作られた無数の罠が足を捕ろうと待ち構えている。背の高い枯れた茎の束の向こうにブルーシートが垂れ下がっていた。足跡に気づいたのか緊張した気配が表にまで伝わってくる。ここは誰にも知られてはならない秘密の基地だから入るためには合言葉が必要だ。同じクラスかどうかは関係ない。「仲間」であることを証明するために合言葉が必要なのだ。合言葉は昨日の帰り際に決められるので毎日顔を合わせていないとわからない。昨日はどうしても見なければならないテレビがあったので合言葉を知らなかった。

 早く言えよ、合言葉。中の声は誰だろう。昨日来れなかったからわからないよ。入れてよ。ダメだ。もう一人いるな。なんか面倒だ。もう少し粘ってみたがだめだった。もう帰っちゃおう。明日学校で聞くさ。

 帰りは同じ道を通らない。誰かに見られると困るからな。フェンスによじ登ってその上を他所ん家の壁を伝って西に進む。たまに家の人が窓の近くにいるからやっかいなんだが今日はラッキーだ。誰にも咎められることなく突き当りまで来れた。フェンスの下には用水路があってこのあたりは少し深さがある。くつを落とせば道をくぐって向こうの川まで流れてしまうから気をつけなきゃ。そういやこの前、となりのクラスのヤツが鍵を落としたとか言ってたな。

 長く放置してある工事現場の看板を捲って通りに出た。ようやく普通の道を歩ける。まだまだ昼は長い。夕焼け空の太陽を直接じっと見ていたけど、我慢できなくなって眼を瞑る。瞼の裏側でも太陽は液体のように色が変わっていく。ようやく玄関まで帰ってきた。

 ただいま、と言い終わる前におかえり、と声がかかった。いつものように台所で後ろを向いている。合言葉なんか無いのに。セールスマンかも知れないし、どろぼうさんかも知れないのに、どうしてわかるの?

(続く)

当原稿はシリーズとなっています。以前の原稿は下記からお読みいただけます。

認証(序章):※日常生活における「認証」をテーマにしたショートストーリー
https://www.cybertrust.ne.jp/journal/authentication-story01.html

認証(鍵1):※「物理鍵」をテーマにしたショートストーリー
https://www.cybertrust.ne.jp/journal/authentication-story02.html

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